なちかつ
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 桃太郎話は戦前、軍国主義教育に利用された。悪い鬼どもを退治して戦利品を持ち帰り、みんなが幸せになるというくだりは、当然のこととして受け入れられてきた。それに対してこの「ももたろう」は、“たからものはいらん”と言い切る。初めて読んだとき、実に新鮮でさわやかに感じた。松居氏の本業は作家ではないが、とてもすぐれた言葉の使い手だと感心する。

印象的な擬態語の数々。“ももが つんぶく かんぶくと ながれてきました”、“ももが じゃくっと われて”、“おとこのこが ほおげあ ほおげあっと いって うまれました”、“おにのたいしょうが、わりわりと かかってきました”など。念のため辞書を引いてみたが載っていないことばである。それなのにこれしかないというほど状況を言い表しているのは、実際の語り言葉を取材したのだろうか。また、“ももたろうといぬとさるときじは、きびだんごたべたべ、おにがしまめざして、やまこえ、たにこえ、うみをこえて、ゆくがゆくがゆくと”などの表現は、画面を左から右へページの進行方向に向かって描かれた絵、それも遠景(やまこえ、たにこえ)からアップ(うみをこえ)に描かれた絵によくマッチして、いよいよおにがしまへ乗り込む高揚感をかき立てる。読者の想像力をかきたてる文と絵。すぐれた絵本は大きな力を持っている。

2024年 (令和6年)
5月2日(木)
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