『狩りの思考法』 2021年 アサヒグループホールディングス 角幡 唯介 著 紹介者 E.Hさん(当館利用者)
極北の地グリーンランド北西部のイヌイット集落を探検基地として通いつめている著者が、現地の人々との関係のなかで考えたことを綴っている。気候など自然環境が変われば、人々の生活様式も変わる。生活様式が変われば、生きることへの考え方も変わる。現代世界を覆いつくしつつある画一的なグローバル社会化にあって、なお特異さを保つ狩猟民の思考法にふれる読書は驚きだった。意識したこともないわれわれの常識が大いにゆさぶられる。
『キャップテン』(1)(2) ちば あきお著 紹介者 K.Hさん(当館利用者)
高1で野球部のキャップテンになった谷口君。あきらめない心、ひたむきな努力。真面目な高齢者(?)だと思っている貴女へ。泣けてきます。青春まっただ中。
『風のマジム』 原田 マハ著 2014年 講談社文庫 紹介者 E.Hさん(当館利用者)
ネットで見てみると、実際に南大東島の旧空港をそのまま活用した「グレイス・ラム」という酒造会社がある。沖縄のサトウキビからつくる蒸留酒 ラム。たくさんの沖縄を愛する人々の思いや願いが風となって流れ込み生まれた酒は、どんな味がするのだろう。この作品には何人もの沖縄を愛する人々が登場する。主人公の伊波まじむは、そんな人々との出会いのなかでまっすぐに成長していく。そのすがすがしさがこの作品の一番の魅力だと感じた。はじめから自信はなくとも信念を持ち続け、相手の良いところがわかり、人と協調し、着実な努力を一歩一歩続ける。どんな仕事をしようと、それは人の生き方として大事なこと。よい人生とはそうやって一日一日を送るということだろう。成功するかしないかは、本人の努力というよりも、むしろその人の力ではどうにもならない運によるところが大きいと思う。そもそも人生で成功したかしなかったかは、その人自身のなかにある。どう生きるか、どう生きたかが大事なのだ。ラム酒「グレイスラム・コルコル」、沖縄の風を感じる酒だという。
『りんごの木を植えて』 大谷 美和子著 2021年 ポプラ社 紹介者 E.Hさん(当館利用者)
小学生の少女の視点で考える身近な肉親(祖父)の死の意味。がんが再発した祖父が家族や周りの人との関わりのなかで、自分の生き方を貫きながら幸せな死(へんな言い方だが)を迎えるまでの物語。その死はあとにのこされた者たちにとっても、穏やかで満ちたりたものだった。おじいちゃんが孫娘に語る言葉の一つ一つが味わい深く、心にしみる。児童書だけど、おじいちゃんおばあちゃんへ、これからおじいちゃんおばあちゃんになる大人へおすすめ。
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戦後、日本国憲法のもと、いやしくも民主主義国家、平和国家として70年も歩んできたこの国で、今なお清算されない戦争と植民地支配の責任がある。「それはどんなことですか?」と問われて、私も、そしておそらく多くの人も答えられない。「知らない」ということは、恥ずかしいことであり、情けないことであり、時にそれではすまされない罪なことでもある。“戦争を知らない子供たち”のさらに後の私などには戦争責任は負いようもないが、では戦後責任はどうかとなると・・。日本国として戦後当然行うべき社会正義が行われてこなかったとしたら、この国の主権者たる国民の一人として、私にもそれはある。知らなかったですまされないとは自分のことだ。
一つの例として、本書でとり上げられている次のような裁判があったことを私は知らなかった。「大日本帝国の国民だった在日朝鮮人のAさんは日本兵として戦争に行き、利き腕を失って帰ってきた。戦後、日本政府は在日朝鮮人らの日本国籍をはく奪。Aさんはある日突然外国人にされてしまった。日本国籍なら当然受け取れる戦傷障害年金がもらえない。Aさんは裁判に訴えた。しかし、日本の司法は国籍を盾に、とうとうAさんを救済することはなかった」 複雑な事情があるのかもしれないが、単純に考えて、外国に侵出してその国を植民地にし、日本への同化政策を進めて戦争にまで行かせたのは戦前戦中の日本。負傷して帰った人を救済するどころか、日本国籍を取り上げ、切り捨てたのは戦後の日本だ。本当にこんなことがあったのだろうか、この戦後の日本で。事実とすればこの不正義を「戦後責任」と呼ぶ。
戦争が終わって70年あまり。今なお近隣の国々との軋轢が増している理由と、この国のあり方を深く考えさせられる本。
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まさに副題のとおり。著者は長年にわたって日本の認知症医療をリードしてきた。もの忘れ外来などで行われる口頭の検査も著者が考案したものである。認知症の定義は「成年期以降に、記憶や言語、知覚、思考などに関する脳の機能の低下が起こり、日常生活に支障をきたすようになった状態」という。認知症の本質は「いままでの暮らしができなくなる」という暮らしの障害だ。年をとれば誰でも認知機能は低下する、それは自然なことというとらえ方がまず第一だろう。認知症と診断されたからと言って、ある日いきなり別人になるわけではない。自分が認知症であることを周囲に言う、言わないはともかく、これからの社会が、認知症であることをさげすんだり、恥ずかしいと思わせてしまったりすることのないものでありたい。
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