なちかつ
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 おすすめ本棚のコーナーなのに、読んで「?」の本をとりあげてよいものか。なにせこの本は、心やさしく忘れっぽくきげんのいいリスや、知っていること考えることが多すぎて頭の重みに耐えかねているアリ、樹の上のリスの家にやって来てやたらと樹から落ちたがるゾウ、そのほかイカ、タコ、カブトムシなど癖のある変わり者たちが次から次へと登場してくるのである。そして一つ一つの短い話は「?」と思う間に終わる。しかし、この本は本屋大賞翻訳小説部門堂々の2位だ。評価は高い。「?」の自分のほうが悪いのだろうか。なにはともあれ、このような本は速く読んではいけません。ゆったりした気持ちのときに、ゆったりと読めば「!」と心に来るものがあるかもしれない。

 江戸時代も終わりに近い頃、主人に代わって長い旅をし、金比羅宮にお参りに出された狗(いぬ)があったという。当時の人たちは狗を代参させた人の心を思って、道々その狗を大事にしたそうだ。この本は江戸から讃岐までの往復を成しとげたこんぴら狗ムツキの冒険物語。フィクションだが綿密な取材で迫真の物語に仕上がっている。

 ムツキは飼い主で商家の娘弥生の病気回復のためこんぴら参りに出される。いくつもの苦難を乗り越え、そしていろんな人と関わりながら長い旅を続ける。旅の後半で知り合うことになるやはり江戸からの伊勢参りの親子、澄江と宗郎。宗郎は目が不自由な男の子で、その快癒を願っての伊勢参りだった。ムツキとの旅でたくましさが現れてくる。やがて江戸に帰り着き、ムツキと宗郎は別れなければならなくなるが・・、ラストは感動的でさわやかだ。

 高齢化とか少子化とか、言葉だけはずっと以前から言われていてだれもが知っていたことだが、それがどんな社会かいよいよ現実味を帯びて見え始めてきた現代、もはや取り返しがつかない時期に入ってしまっていることに愕然とする。有効な対策がとられないままに、生産年齢人口の減少と高齢化率の上昇はセットでやって来た。想像力の欠如だけではないだろう。国民も政治もそのときどきの課題にとらわれて、この数十年間無策だった。楽観的に待っていた90年代後半から2000年代にかけての第3次ベビーブームはとうとう来なかった。それはこの国が、当たり前に働いて結婚をし、家族を養っていける国ではなくなってしまったということか。人口問題は貧困の問題と密接に関係しており、貧困問題は経済のグローバル化や国際競争の激化による労働環境の悪化とつながっている。また、高齢人口の増大に伴う社会保障費の世代間格差も若年層への財政的支援を圧迫している。

 本書を読んで思ったのは、この国の社会のゆがみだ。特効薬はない。これまでのような場当たり的、一時的な「処置」でなく、将来にむけて国としてどんな制度を打ち立てていくのかという「対策」が求められている。まもなく「高齢者」の仲間入りをする私なども、子や孫の世代のため、よくよく覚悟を決めなければならないということか。やれやれ。

2019年 (平成31年)
4月25日(木)
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