重い自閉症の東田直樹くんはキーボードを使って自分の意思を表明することができる。今では何冊も本を出している。自閉症者のみんなが、東田くんのように自分の考えをしっかり持った人なのだろうか。だとすれば、コミュニケーションがとれないという状態は、本人にとってどれほどもどかしく辛いことだろう。自分の経験上、容易には意思を通わせられない自閉症者に、自分のほうが壁をつくってしまっていた。それはまちがいだった。
著者は自身の実態に基づいて自閉症者の行動パターンを具体的に述べている。例えば「言葉を使う難しさ」。「ありがとう」とお礼の言葉を言うべきところ、まるでとんちんかんの「いってらっしゃい」という言葉を発してしまったという。なぜそんな無関係な言葉を言ってしまったのか、その思考回路を説明したうえで、次のように書いている。「僕が言い間違えたと気づくのは、声に出していった言葉を、自分の耳で聞いたときです。けれども、後の祭りという感じで、周りの人から指摘されたり、笑われたりします。こんなことさえわからないという周囲のあきらめや同情は、僕を余計に、みじめな気分にさせます。ただ打ちひしがれるしかありません。ぼくたちはできないことに傷つく以上に、周りの人の態度や気持ちで心が折れてしまいます。」