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 『マホメット』 本書はわが国イスラーム研究の第一人者である著者の、“若い日の私の胸中に渦巻いていたアラビア砂漠の浪漫を、何の制約もなく、ただ奔放に形象化したような、私自身にとってこよなくなつかしい書物である”。学術書というよりは物語、叙事詩といった感がある。マホメット出現に先立つ前イスラーム的異教時代に多くのページを割き、当時の詩からその時代の砂漠の民の様子を描き出している。だからこそマホメット後の世界がよくわかる。そもそもユダヤ教、キリスト教、イスラーム教は同じ思想から起こっており、それゆえ反目し合うところも大きいのか。巻末の解説では碩学の徒 井筒俊彦のイスラーム学の概要を知ることができる。

 『イスラーム文化』 平易で謙虚な語り口調に氏の学問の深さが偲ばれる。語りは易しくとも、扱う内容は遠いイスラーム世界の精神性の話である。ぼんやりとその輪郭を追いかけただけのように思うが、それでも深く心に残るものがある。イスラームとユダヤ・キリスト教徒の関係、コーランとハディース、スンニー派とシーア派、イスラームの顕教と密教など、現代の世界を見る目が少し深まったような。

2024年 (令和6年)
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