世界の国々を先進国、発展途上国と呼び分ける言い方は今でもある。戦後日本はいち早く先進国の仲間入りをした。先進国のその先は何と言えばいいのだろう。もはや日本は先進国への上り坂をとうに登りきり、今その先の下り坂にかかっている。その坂はこれからどんどん急になっていくようだ。人口は減少し、経済は縮小していく。加速度をつけながら。本書はそんな時代にどんな社会や地域、コミュニティを創っていくべきか、そんな時代を生きていく若者にどんな力を育てるべきかについての劇作家からの提言である。
たとえば劇作家は、福島原発事故の気の遠くなるような今後の対策においてオロオロと歩いて行くタイプのリーダーが必要だと述べている。「福島が抱える下り坂は、日本の一つの縮図である。これからの日本と日本社会は、下り坂を、心を引き締めながら下りていかなければならない。そのときに必要なのは、ひとをぐいぐいとひっぱっていくリーダーシップだけではなく、“けが人はいないか”、“逃げ遅れた者はいないか”、あるいは“忘れ物はないか”と見回ってくれる、そのようなリーダーも求められるのではあるまいか。滑りやすい下り坂を下りていくのに絶対的な安心はない。オロオロと、不安の時を共に過ごしてくれるリーダーシップが必要なのではないか。」 また、学生に対話劇を創らせる意図として、「私は対話劇を、一つの主義主張を伝えるのではなく、異なる価値観や意見を持った人々が登場し、戸惑ったり、理解し合ったりしながら対話を進めていく演劇のスタイルと定義している。だから、ここでは、、“復興が進んでいる”とか“希望が見えてきた”とか、まして“絆”だとか“思いやり”だとか、そんなものは描かなくていい。」と説く。
地域づくりの例としては、小豆島や豊岡市の地道な取組が紹介されている。