なちかつ
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 愛なき世界とは植物のこと。植物は生きて子孫を残すのに愛を必要としないから。T大大学院でシロイヌナズナの葉を研究している本村紗英は、一生を植物の研究に捧げようと心に決めている。そんな本村に恋をした藤丸陽太。藤丸はT大そばの洋食屋で見習い店員をしている料理人の卵だ。二人は互いに惹かれ合い、互いの仕事ぶりに敬愛の情を寄せるが、本村の「愛なき世界」への気持ちは固く、愛ある世界は成就しそうにない。

作品では、周りの人々に支えられながら自分の道を一生懸命進もうとする若者たちの姿がとてもすがすがしく描かれている。そもそも人が志をもって必死に生きていく姿は、つまづいても、思いどおりにならなくても、すがすがしいものだ。洋食屋の大将、研究室の教授や同僚など、二人をとりまく面々も個性的で魅力的な生き方をしている。

 それにしても三浦しをんという作家は、あるときは大学駅伝、またあるときは辞書編纂など、マニアックな世界を徹底的に調べ上げ、リアリティのある作品を書く。本作品でも、植物研究の専門的な領域を詳細に描いている。

 

2024年 (令和6年)
5月5日(日)
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