すごい本である。語りに力がある。今の時代には非常に特殊な生き方と言えるマタギ猟師を生業に選んだ著者が、その仕事ぶり(生き様)をじつにしっかりした言葉で語っている。描写がすぐれている、というよりも著者の生き方そのものに力がある。久保さんは非常に優れた物書きだと思ったが、その前に非常に優れた羆撃ちである。北海道の厳しい自然の中、単身山に分け入り、何日もかけて羆や鹿を追う。そして必ずと言っていいほど獲物を得る。得た獲物は自然への礼節を持って解体し、食す。その過程がていねいに語られている。筆者の自然や獲物に対する考え方、真摯な姿勢に感動した。そして猟犬フチである。人と犬がこれほどまで心を通わせ合うことができるものだろうか。フチとの素晴らしい時間があった分だけ、フチを失う時の悲しみと自責の思いは深いものがあった。これもまた、読む者の心を激しく打つ。
なちかつ
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