なちかつ
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 「ことばは沈黙に 光は闇に 生は死の中にこそあるものなれ 飛翔せるタカの 虚空にこそ輝ける如くに」

 少年ゲドは自分に並はずれた魔法の才能があることを知り、その思い上がりから、禁じられた魔法で自らの<影>を呼び出してしまう。影は邪悪の象徴、「かのもの、内にありて男をむさぼり食らい、やがて男の姿にて世を歩き、あまたの人を破滅に導きたり」というものであった。影との戦いに敗れれば、ゲドは全き人間になれず、世に害をなす存在になってしまう。だれにも代わってもらえない、だれにも助けてもらえない、ゲド自身の影との戦いが始まる。困難な戦いが。

 訳者あとがきから、なるほどそうだと思ったこと。わたしたち人類は高度に機械文明を発達させたおごりから、たとえば、人類を破滅に向かわせる「核」という影を呼び出してしまった。核廃絶の戦いは人類にとっての影との戦いである。この戦いの相手はわたしたち自身だ。それが個人であろうと、人類全体であろうと、自身の影との戦いほど険しく困難なものはない。そんな重厚なテーマをこのすぐれたファンタジー作品から読み取ることができる。

2024年 (令和6年)
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