文は映画監督の大島渚氏が小学生だった息子の宿題で書いたもの。どういうことかというと、息子さんの小学校で、お父さんかお母さんにたのんで子ども時代の思い出を書いてもらってくださいという宿題が出されたそうだ。氏はそれにこたえて自分の子ども時代の出来事を淡々と作文に書いた。それがそっくりこの絵本の文になっている。
大島氏は1932年生まれ。子ども時代の思い出は戦争と結びつく。けんかが強くてほがらかなさかいくん、色の白いやさしい先生、この二人の人物との関わりで話は展開する。
戦争でお父さんを亡くしたさかいくん、色白でやさしい人なのに戦争に行くことになった先生。文章だけでもすぐれた反戦の文学作品と言えるが、絵もすばらしい。特に最後の2つの顔の絵。先生が出征する前、先生の家でタケノコごはんをよばれて、「戦争になんか行くな」としゃくり上げながら言うさかいくんの顔。その次のページの先生の顔。その表情のない表情。絵だけ。ことばも文もない。絵の力はすごい。色白でほおの赤みがめだつやさしい先生の頭は坊主頭になっている。かたく結んだくちびる。中空を見つめる目。庭にはタケノコの季節の花々が満開で平和そのものだ。その一方で、床の間には武運長久の寄せ書きが書かれた日の丸が掲げられている。それが少年大島渚の脳裏に残った、タケノコご飯をよばれた日の風景だ。そして最後のページは文だけ。小学生の息子へ語りかける平易なことばに、父親としての思いと願いがこもっている。「そして、パパは、それまでずっと、日本の国が戦争をすることが、ただしいことだとおしえられてきたんだけど、そのときはじめて、やっぱり戦争はしないほうがいいのかなあ、とおもったのでした」