雪が降っている。田舎の小さな木の家。冬の間街へ出稼ぎに行った大好きな母さんを待つ黒人の女の子。おばあさんとふたり。やってきたネコ、かあさんのにおい、届かない手紙、小さな窓、うす暗い質素な部屋、雪の原・・、物語は淡々と語られ、絵には力がある。アメリカ社会の黒人の歴史まで語っているような奥深さを感じる。大好きな母さんのことを案じながら待つ子どもの気持ちを感じとってほしい。
傑作だと思う。話のテーマも文も絵も、そしてとりわけ訳が。原題は“COMING ON HOME SOON”だが、「かあさんをまつふゆ」という邦題をつけた訳者はすばらしい。この絵本は始めから終わりまで、一冬を出稼ぎに行ったかあさんを待つ少女の寂しさや不安な気持ちを描いた作品だから。「かあさんの手はあったかくてやわらかい」、この最初の一文で、少女とかあさんの深い愛情が読み取れる。「じかんがすぎてゆく」の場面の絵。かあさんんをまつ冬のなんと長いことか。「そのかあさんが、もうすぐ、もうすぐかえってくる」、同じいつもの部屋、おばあちゃんに抱かれて何度もかあさんの手紙を読んだことだろう。“coming on home soon”はこの場面のことだったのだ。作者は少女のこのときの気持ちを一番書きたかったのだ。時代背景、家族の暮らし向き、深い愛情で結ばれたわたしとかあさんとおばあちゃん、直接には語られていないが全部わかる。人が生きていくうえで一番大事なことが静かに描かれている傑作だと思う。