百年後のわたしたちには容易に読み進められないけれど、何とも流麗な文体。注なくしては理解しえない言葉の数々。さして長くもない作品をどうにか読み通してみると、作品の舞台である東京は吉原遊郭界隈のようす、そこでの悪ガキグループどうしの抗争、一方のグループで中心的な存在の少女大黒屋の美登利、その自由闊達な振る舞い、敵対グループの中心だがおとなしい少年龍華寺の信如、美登利の信如へのほのかな恋、そして突然美登利に訪れた少女時代の終わり、などを読み取ることはできる。しかし、巻末の解説の手引きで作品の味わいはうんと深まる。作者樋口一葉がその短い生涯でどんな世界を見つめていたか、その視点を作品に重ね合わせてみると、お侠(おきゃん)な美登利の変調がこの上もなく切ないものに思えてくる。
*「日本近代文学大系第8巻樋口一葉集」は詳細な注がありわかりやすい。