なちかつ
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 この物語の真の主人公は森宮さんだと思う。森宮さんは最後と最初だけ一人称で登場してくる。最後の場面を読んでもう一度最初の1ページを読むと、それが優子の結婚式の朝のことだとわかる。優子には父親が三人、母親が二人いる。家族の形態は十七年間で七回も変わった。まるで大人たちが優子の親という立場をバトンパスするかのように。森宮さんは35歳のとき、15歳の優子の父親になった。それから8年間、優子が結婚するまで「森宮さん」、「優子ちゃん」と呼び合う父と娘の生活が続く。家族とは、親子の関係とは? 作者はややもすると重くなるこのテーマを、実に軽いタッチで描いていく。カツ丼に、オムレツ、餃子、ふり返れば食べ物の場面がふんだんに出てきた。家族とは、親子とは、いっしょにご飯を食べる関係なのかも?

 「自分のために生きるって難しいよな。何をしたら自分が満たされるかさえわからないんだから。でもさ、優子ちゃんが笑顔を見せてくれるだけで、こうやって育っていく姿を見るだけで、十分だって思える。これが俺の手にしたかったものなんだって」 「本当に幸せなのは、誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ」

2024年 (令和6年)
12月23日(月)
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