国際霊柩送還とは、海外で亡くなった日本人の遺体や遺骨を日本の家族のもとへ送り届けること、またその逆で日本で亡くなった外国人を祖国へ送還することだそうだ。著者は、国際霊柩送還の専門会社エアハース社社長の木村利惠をはじめ、家族経営的なこの会社の社員たちを取材し、「人は死んだらどうやって故国へと帰るのか。どんな人がどんな想いで運んでいるのか。国境を越えた地で亡くなると、家族はどんな想いを抱くのか」を追求している。
事件、事故、あるいは紛争などに巻き込まれ、異国で命を落とした人を、本国まで送還し、家族に届けるという仕事のなんと大変なことか。国情も宗教や習俗も異なるさまざまな国がある中、関係者に連絡を取り、必要な手続きをし、航空便の手配をし、遺体を空港で受け取る。そして本書に書かれてあるとおり、多くの場合、腐敗が進み傷んでいるであろう遺体にていねいな手当てを施し、安らかな姿に戻してから家族のもとへ帰すのである。ため息が出るようなプロフェッショナルな仕事ぶりだ。エアハース社の社員たちの仕事の根幹には、たとえもの言わぬ死者であってもその人の尊厳を最後まで守りぬこうとする崇高な精神がある。それが彼らの誇りであり、また、その誇りがなければこんな厳しい仕事はできないのではないか。人が海外で亡くなるということは、ほとんどの場合、その家族にとっては予期しない出来事であり、突然の悲しみに襲われることになる。そのとき遺族はどんな想いを抱くのか。それはもちろん一様ではないが、遺族がきちんと亡くなった人に向き合い、「さよなら」を言うための機会を用意するのも国際霊柩送還の仕事なのだそうだ。そのために、できるだけの手当てを尽くして、「行ってきます」と家を出たときの顔、姿にするのだという。
私たちの社会は、こんなよい仕事をしようとする人たちに支えられている。