2016年6月、二日間にわたって開催された法学セミナーの記録。書名のとおり法学を学ぶ人たちの専門性の高い内容で、他国の憲法や政治制度、先学の研究など法学に関する知識がないとなかなかついていけない。
それでも蟻川恒正氏担当の第2分科会「個人の尊厳」では、憲法の精神の奥深さを少しは感じとることができた。蟻川氏はまず近代市民社会になって「個人」がいかに析出したかというところから述べる。人でも人々でもない「個人」。その個人に付される「侵すことのできない権利」について、権利というのはそれ自体義務だ、という氏の論理は、そこに「個人の尊厳」につながる意味が見てとれた。「個人」ははっきりとした輪郭を持つ、まさに一人一人の人間であり、「国民」というぼやけた存在とは違う。13条に「すべて国民は個人として尊重される」とある。私たち(国民)は個人として尊重されるのだ。さらに97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、・・現在及び将来の国民に、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」とある。権利=義務だとしたら、これは厳しい。私たちは永久に自由に生き、人間らしく生きていく義務がある、そういう社会をつくっていきなさいということだ。国民というぼやけた存在のまま、どなたか強い権力者のもとで安穏と生きる生き方、社会を選んではならんということだ。その厳しい義務を背負うからこそ「個人の尊厳」なのだ。議論はさらに権利と公共の福祉との関連へ続いていく。頭はさらに飽和状態になる。
*企画展示『今こそ考えよう日本国憲法(このくにのかたち)』から
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コロナ禍のため長く休校が続いている。小中学生のみなさんには、こんなときこそすぐれた児童文学作品にひたる時間があってもいいと思う。ちょっと手に取るのがためらわれるような分厚い本。500ページの長編だ。でも、読み進めると、長編だから味わえる濃厚な物語世界が立ち上がってくる。ゆっくり、ゆったりその世界にいればよい。そんなぜいたくな時間を過ごしませんか。「ハイジ、知ってるよ」と言う人、原作は読みましたか。原作を読んでみると「知ってる」の中身が変わる。その驚きと感動を。
物語の後半はあらゆることがよい方へよい方へと展開し、幸福感でいっぱいになる。ハイジという神の心をもった少女によって、まわりの者すべてが救われ幸せになっていく。子どものための物語としてすばらしいと思う。読者は、前半部で語られるさまざまな苦難をハイジといっしょになって乗り越えるからこそ、物語の終わりで大きな喜びを感じることができる。話の中に入れば読み通すのはまったく苦にならないこの物語を、できるだけ多くの子どもたちに勧めたい。
図書館にはありませんが、2003年上田真而子訳の岩波少年文庫版(上下巻)も読みやすい日本語訳でおすすめです。
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筆者は本当に上手に小さな旅をする。本書を読むと、こんな小旅行なら自分にもできる、行ってみたいという気持ちになる。「心がほどける」というタイトルがいい。仕事に追われる日常を離れて、少しの間心をときほぐす旅をする。それはいい景色を見ることであり、体験型のイベントに参加することであり、・・、40代女性の筆者の場合、観光客のために観光地が用意するサービスに素直に乗ることのようである。そんなサービスを十分味わい、楽しみ尽くすおおらかなところを見習いたい。それにしても東京に住んでいると便利だなあ。新幹線で、飛行機で、日本全国どこでも行きたいところへ数時間で行けるのだから。
*企画展示「ちっちゃな春ふぇす~六女の饗宴十八冊~」から
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